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天使の小夜曲

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原題: 天使小夜曲

天使の小夜曲 — 物語のイラスト
作品紹介のカバー画像 · AIで制作したイラストです。原作の公式表紙ではありません。

# 天使の小夜曲 ## 挿絵 > https://www.bilinovel.com/novel/733/123569.html ![](https://img3.readpai.com/0/733/123569/104525.jpg) ![](https://img3.readpai.com/0/733/123569/104526.jpg) ![](https://img3.readpai.com/0/733/123569/104527……

オリジナル小説です。登場人物と出来事は架空です。

紹介の編集: 黄果ショートドラマ · 更新日:

物語

## 挿絵

## 序幕

ひとりの少女が歌っていた。

少女……というより……まだ、子どもと言うべきだろうか。

美しい童声。

柔らかな薄茶色の髪は、木漏れ日のようにきらめき、光沢を帯びた薄絹をまとったかのようだった。

少女は穏やかな表情で歌っている。

けれど、その瞳にはなぜか寂しげな光が揺れている。気のせいだろうか。

――目。

そう、目だ。大きく、美しい瞳。何より印象深いのは、左と右で瞳の色が違うことだった。

――オッドアイ(異色の瞳)……

右目は、夕焼けの残光のような赤。

左目は、生まれたての朝焼けのような青紫。

(――ラスティ、また歌っている。)

クラビスはいま、自分の夢の中にいた。

小さな歌姫、元気いっぱいのラスティとともに旅をする夢。

クラビスの伴奏に合わせて、ラスティは歌う。

村から町へ、町から村へ。二人の奏でる音楽は、街角をたちまち小さな音楽堂に変えてしまう。

ラスティの歌声を聴く者は、誰もが心の底から幸福そうな顔になる。

拍手は波のように湧き、花束が押し寄せる。ラスティは花束を抱えて、嬉しそうに笑った。

「旅に出られて、本当によかった。」

クラビスは、はしゃぐラスティを見ながら笑い、優しくそう答える。

けれど、守りきれなかった……その悔いは、顔では笑っていても、心では涙を流しているのだろう。

「ふふ。クラビス、変だよ。」

ラスティは子犬のように……

## 八月

「このままだと、フォルディオの町まであとどれくらい歩くんだ?」

長い独り旅のうちに、クラビスは独り言の癖がついていた。背の荷を下ろして道端に置き、大きく伸びをして気分を整える。

長い旅のあいだに服は擦り切れ、黒い髪には厚い埃がかかっていた。見た目は二十歳前後だが、旅に慣れた所作は、とうていそれほど若い者のものには見えない。

ここは土の国の辺境だ。クラビスは辺鄙な国境の町ダイダロから、ほぼ一日かけてようやくこの場所まで来た。

夏は過ぎたというのに暑気はまだ強く、道端の木々の茂みの隙間から、日光が遠慮なく差し込んでくる。

「――少し休むか。噂が本当なら、目的地ももう近いだろう。」

クラビスは流れ落ちる汗を拭い、小さく息を吐いて、道端の木のそばに腰を下ろした。そしてふと思い立ったように、携えてきたフドル琴(風の魔導石で駆動する魔法の楽器)を奏ではじめる。

フドル琴はピアノに似た小型の鍵盤楽器で、内部に風の魔石が封じられている。魔石の力で琴の重さはかなり軽減されているが、それでもなお多少の重さはある。さまざまな音色を出せるうえ、通常の楽器よりさらに奥深い調べを奏でられるため、多くの楽士が好んで使う楽器だった……

## 九月

蝉は、去りゆく夏を惜しむように、懸命に鳴いている。

川辺からはさらさらと水音が聞こえる。フォルディオの町の山裾、森の果て。人まで蒸発させそうな暑さのなかで、クラビスはぎしぎしと身体をよじり、寝袋から這い出した。

数えてみれば、フォルディオの町に来てから、もうすぐ一週間になる。

クラビスはほぼ毎日町へ出て、天使に関する情報を集めるために奔走していた。だが、状況は芳しくない。図書館で見つけた、この町に関する断片的な記述によれば、かつてこの町には天使の羽根が保管されていたらしい。その羽根は願いを叶え、奇跡さえ起こすという。集められた情報は、それだけだった。町の人々は彼を余所者とみなし、警戒して距離を置き続けている。まるで住民全員が申し合わせて、何かの秘密を守っているかのようだった。

クラビスが毎日欠かさずやることは、もうひとつある。

それは日課だった。

すなわち――

流れる川の水をすくって顔を洗い、それから手早くフドル琴を組み立てる。

朝の静けさを破るかのように、柔らかな音楽が川辺から流れ出す。

(そろそろ、時間だろう?)

クラビスは何かを期待するように、町へ続く道へ視線を向けた。

――そのとき。

かさ、かさ。

草を踏む小さな足音が聞こえた。

「よう、おはよう、ラスティ。」

クラビスが音のする方を振り返ると、そこにいたのはやはりラスティだった。

クラビスを見て、ラスティも顔をほころば……

## 十月

天を衾に、地を床に。野宿の暮らしも悪くない。とりわけ、天気のいい日は。

晩秋の十月、青空がどこまでも広がっている。

クラビスは野営している川辺で、さっき釣った川鱒を昼飯に焼いていた。

脂がぽたぽたと燃え盛る火に落ち、ぱちぱちと音を立てる。香りが鼻を突き、腹の虫が思わず大声を上げた。

「早く焼け〜。早く〜。」

クラビスは呪文でも唱えるように小さくつぶやき、ときどき魚を裏返して、両面がちょうどよく焼けるよう火加減を見る。

「焼けた! いただくぞ〜〜……っと!」

大きく口を開けてかぶりつこうとした、そのとき、脇の草むらからがさがさと音がした。

「ラスティか?」

食べかけの塩胡椒焼きを置き、茂った草むらへ目を向ける。

けれど、そこから出てきたのは可愛い子猫だった。

「匂いに釣られて来たのか?」

美しく艶のある毛並みで、どうやら飼い猫のようだ。クラビスは串から魚の身を少しむしり、掌に載せて差し出した。

「ほら、食べな。腹が減ってるんだろう?」

魚を載せた手を、上下に揺らす。

「どうした? いらないのか?」

白い猫は見知らぬ相手をひどく警戒しているらしく、近寄ってこない。

「食べないのか?」

それから、食欲に負けたのか、それとも人間への警戒がクラビスの想像より薄かったのか、猫は長い尾を振りながら近づいてきた。クラビスはもう一度……

## 十一月

季節はすでに冬へ移っていた。クラビスがこの町に来てから、まる三ヶ月が過ぎている。

(……なんだか、くらくらする……身体もだるい)

最近、町ではひどい流感が流行っていた。

町を歩けば、具合の悪そうな人がいくらでも目に入る。クラビスも例外ではなく、身体がこんな状態になるとは思いもしなかった。

以前の彼なら、風邪ごときになど、まったく影響されなかったはずだ。

(ここまでだ。もうあの人とは――ラスティとは関わるな。おまえの命に関わることだ。)

夢で聞いた言葉が耳の奥で響き、背中に棘を刺されたようだった。

週に一度の演奏会で得る金だけでは、とても暮らしが立たない。それでクラビスは最近、日雇いの仕事に追われていた。

今日はアングルロード旅館での仕事を終え、いま帰路についている。

「うわあ――寒い!」

山から吹き下ろす凛とした寒風が、夜の寂しい町を駆け抜けていく。

(最近……身体の調子も、いいときと悪いときが激しい。早く布団に潜って休もう)

寒さのせいで、クラビスは足を速めた。大通りを抜け、近道をして帰ろうと、町を出る手前の角まで来たところだった。

「うわっ!」

「――!!」

突然、小さな人影が角から飛び出してきた。

「いてて……ラスティ?」

その小さな姿は、まさにラスティだった。恐怖に目を見開き、身体を小刻みに震わせている。

「あ……あう……」

い……

## 十二月

「あう!」

部屋には朝の明るい陽が差し込み、同時にラスティの元気な声が響いた。

「眠……眠い……も……もう十分……」

ベッドに居座るクラビスに、ラスティは容赦なく毛布を引き剥がした。

いかにも楽しんでいる顔だ。

「うう……こんなに眠いのに……」

「あう!」

「もう少し寝かせてくれ。昨日は新しい曲を作っていて、ろくに寝ていないんだ。」

じーっ、とラスティはクラビスの顔を見つめている。

「あ〜う!」

「え? 今日は? あ! 演奏会!!」

――ラスティに急かされ、クラビスはベッドから飛び起きた。

*

クラビスがラスティの家に居候して、半月以上が経っていた。

空き部屋に寝泊まりしている――その部屋は、もともとラスティの父の部屋だったらしい。だからクラビスは、しばしば恐れ多く思う。

ただ居候しているだけでは申し訳が立たないので、最近は家事を手伝っていた。

朝起きて最初にすることは、水汲みだ。

井戸から一日分の清水を汲み、桶に入れて担いで帰る。

これがなかなか骨の折れる仕事だった。

体調のすぐれないエオリアの負担を、少しでも軽くするために、クラビスにできることだった。

昼には日雇いに出て、食費を稼いで帰る。

クラビスがそう言うと、ラスティは顔を真っ赤にして家の外へ飛び出していった。

医者の話では、彼女の症状は町で流行している風邪と同じだという。

最近、疫病が猛威を振るっているせいで、おおよ……

## 終幕

燦々と太陽が輝き、青い空はどこまでも晴れ渡っている。陽光あふれる初夏の、ある一日。

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