オリジナルの物語設定
千の剣が舞う空
読み始める →原題: 千剑飞舞的天空
千の剣が舞う空 挿絵 https://www.bilinovel.com/novel/619/113560.html
オリジナル小説です。登場人物と出来事は架空です。
紹介の編集: 黄果ショートドラマ · 更新日:
物語
## 挿絵
## 一章
ああ、鳥が空を渡っていく。めずらしい。
現実味を欠いた、遠くの空を眺めながら、僕はそう思った。
もちろん、いまそんなことを考えている場合ではない。
銀の光が、視界の左上から右下へと走る。刃の光が、肩から斜めに斬り下ろされた。
小さく一歩後ろへ跳んで、その一撃をかわそうとしたが、反応は半拍遅れた。
左肩から右の腰まで、相手の長剣と、すでに一度、親密な接触を済ませていた。
追撃に備え、距離を取りながら、体勢を立て直す。
相手もそれ以上は追ってこず、こちらの動きを見定めるように、ゆっくりと剣を頭上へ掲げた。
強い。
これまで戦ってきた相手のなかでも、実力は上位三人に入ると言っていい。
それでも、僕はまだ戦える。戦う力があるうちは、負けてはいない。
意識のすべてを、指先に集める。
致命の一撃をくれるつもりか。相手の攻めのタイミングを、慎重に読む。
「おい、お見合いしてるんじゃないんだ。行けよ」
僕たちの決闘を囲む、円陣の spectators の輪の中から、アスミの声が飛んできた。
わかってる。静かに見ていろ。
こちらは、浅い呼吸に合わせて、間を計る。
一。
二。
三!
早く寝ないと、明日が面倒になる。学期の始まり早々に遅刻するなんて、ろくなことじゃない。学校の机の前に座っていることこそが「現実」で、長剣を振り、世界最強の剣士を目指す世界は「虚構」だ。
攻撃範囲に踏み込んだ僕へ、相手の剣が振り下ろされ、そして――
## 二章
二学期の始業式から一週間後の月曜日。
六時間目が終わり、終礼も、以前の漢字(注:これは日本語の漢字のこと)テストの答案を返しただけで終わった。
だが、今日は僕の日直だったので、すぐに帰るわけにはいかない。
一緒に日直のクラスメイトと、箒を手に教室の隅々まで掃き清める。ゴミ捨ての担当をじゃんけんで決めるときさえ、彼らとは一言も口をきかなかった。
あっさりじゃんけんに負け、ゴミを捨てて戻ってきたころには、教室にもう誰の姿もなかった。僕は、教室のちょうど真ん中にある席へ目を向けた。
もちろん、真山明日美も、もういなかった。彼女はいつも、終礼が終わるやいなや帰っていく。もちろん、一刻も早くゲームの世界へログインするためだ。家が学校に近い僕より、早くオンラインになることさえある。
誰の目にも幸福な学園生活を送っているように映る彼女が、なぜネットゲームにあそこまで熱を上げるのか、僕にはわからない。
僕と同じように、何か理由があるのかもしれない。あるいは、友だちと街をぶらついたり、運動部の活動に出たりするより、ゲームのほうが面白いと思っているだけなのかもしれない。
もっとも、そんなことは僕にとってどうでもよかった。
鞄をひっつかみ、下校の興奮に浮かれたクラスメイトたちの隙間を抜けて、駐輪場へ向かう。
自転車にまたがり、ペダルを強く踏む。秋の陽射しは、まだ強かった。
高校に入ってから数えきれないほど通った商店街を、また通り抜ける。いまも、店の半数近くはシャッターを下ろしたままだ。そして繁盛している基……
## 三章
その夜、めずらしく夢を見た。
とても現実味のある夢だった。
僕は、体育館に敷かれた四角い試合場の一端に立ち、袖のない空手着をまとっていた。昨日まで身に着けていたような、ひどく懐かしい感触だった。
空手をやっていたのは小学生のころなのに、夢に現れた僕は、いまの高校生の姿をしていた。
向かい合い、試合場の反対側に立っていたのも、高校生らしい、僕よりほんの少し体格のいい少年だった。
顔はひどくぼやけていて、誰だかわからない。
きらきらと光る瞳だけが、ことさらはっきりしていた。
僕たちのあいだに立った審判が手を振ると、二人は引き合う磁石のように、慎重に、そして大胆に、場の中央へ踏み出した。
握手をして礼を交わせる距離まで進んだ瞬間、二人は同時に爆発した。
枷を解かれた猛獣のように、手足を振り、相手へ襲いかかる。
恨みもなく、言葉さえ交わしたことのない相手へ、叩き、蹴り、ストレートを叩き込む。
叩き、蹴り、蹴り、打撃、叩き。蹴りの構えから、ストレート。相手のストレートをまともに受け、蹴りで返す。
そんなやり取りが、どこまでも続いていた。
釘板の釘を筋肉に打ち込まれたような痛みが、波のように襲ってくる。
短い攻防のあと、重い疲労が全身に広がった。
夢のなかなのに、あまりにもリアルな感覚だった。
どうして、こんなに苦しまなければならないのか。夢のなかの僕は、そう思った。
思いながら、なおも相手へ与え続け――
## 四章
部屋の時計に目をやると、針はちょうど十一時三十分を指していた。
ヤミと約束した決闘の時刻まで、あと三十分。
決戦前のウォーミングアップとして、僕とアスミはそれぞれ、順位十位から百位のプレイヤー五人と戦った。
その五戦はいずれも、体力ゲージを四分の三以上残したまま相手を倒していて、調子はかつてないほど良かった。
だが、白衣の剣士のほうは、楽観できる状態ではなかった。
アスミも全勝はしたものの、四戦は体力ゲージを半分以下まで削られてからの勝利で、最後の一戦は空血まで追い込まれた末の苦勝だった。
アスミをほとんど絶体絶命まで追い込んだのは、最近順位を上げ続けている十五位のプレイヤーだった。攻撃はたしかに正確で、コンボもこなれている。そう遠くないうちに、十位以内へ入るだろう。
だが、普段のアスミを苦戦させるほどの相手ではない。
それは、いつもアスミと一緒にいる僕にだけわかる、ごくごく小さな瑕だった。技と技のあいだの間合いが、いつもより、ほんの少し長い。
それほど微小な瑕が、「最強」と謳われるヤミを倒そうとするいま、これほど大きく見える。
「調子、ちょっと悪いね。でも、私は本番に強いタイプなんだよ」
画面に表示された文字を見つめながら、向こうで痛みをこらえて打鍵している真山明日美の姿を想像する。
やがて、時針と分針が、そろって真上の空を指した。
日曜の未明。まばらに、何人かのプレイヤーが……
## 終章
教室のなかだというのに、吐き出す白い息に、思わず目を細めた。
真山が去ってから、あっという間に一か月以上が過ぎ、いまは十二月の半ば。期末試験も終わり、あとは冬休みを待つだけになっていた。
クラスメイトの笑い声が、教室の中央に残された空席を、ときおり横切っていく。先生が真山の転校を知らせた日、クラス中がその話題で持ちきりだったが、いまでは彼女の名を口にする者はほとんどいない。
みんなが彼女を忘れたわけではない。ただ、真山明日美は、もうここにいないのだ。
あれ以来、真山と再会するどころか、連絡さえしていない。そういえば、僕は彼女の連絡先すら知らない。
僕だけではない。クラスの誰も、真山のアメリカでの住所を知らないらしい。
永井でさえ、知らなかった。
それを知ったとき、僕はたしかに、小さく驚いた。
「え? 永井さんも、彼女の住所を知らないの?」
「むしろ、私一人が住所を知らないほうがおかしくない? そう思わない?」
「思わない」
僕の答えを聞いて、永井は苦笑した。彼女とのあいだは、それほど近いわけではない。それでも、少しぐらいなら冗談を言い合える。
「彼女との最後の連絡は、みんなと同じ、あのときだよ。先生が真山の転校を知らせた直後に、空港から届いた彼女のメール」
永井の言うメールは、クラス全員に送られたものだった――真山の携帯……
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