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桜神楽

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原題: 樱神乐

桜神楽 — 物語のイラスト
作品紹介のカバー画像 · AIで制作したイラストです。原作の公式表紙ではありません。

## 挿絵 ## 此花神楽 スキャン: zhangtn 「わたしを殺したのが誰なのか、知りたい」 向かい合って話すことはできない。 視線を合わせることもできない。 わたしには何も見えず、何も聞こえない。 だから、振り向くなど荒唐無稽だ。 そう。いまわたしは値踏みされている。学園の敷地を活気に満ちて行き交う大勢の生徒たちのなかで、上乃此花が普通の人間なのかどう

オリジナル小説です。登場人物と出来事は架空です。

紹介の編集: 黄果ショートドラマ · 更新日:

物語

## 挿絵

## 此花神楽

スキャン: zhangtn

「わたしを殺したのが誰なのか、知りたい」

向かい合って話すことはできない。

視線を合わせることもできない。

わたしには何も見えず、何も聞こえない。

だから、振り向くなど荒唐無稽だ。

そう。いまわたしは値踏みされている。学園の敷地を活気に満ちて行き交う大勢の生徒たちのなかで、上乃此花が普通の人間なのかどうかを。

幼いころの失敗を、もう繰り返すわけにはいかない。

冷たい視線のなか、ひとりで震えて過ごした時間は、もう二度と欲しくない。

ただ、平凡な女の子でい続けたいだけなのに。

それなのに。

少年のその一言に、耳を塞ぐことができなかった。

思わず振り向いた視線の先で、見慣れた月深学園高等部の制服を着た少年が、年に似合わぬ落ち着いた表情で、まっすぐわたしを見ていた。

「聞いてくれて、ありがとう」

もうこの世界には存在しない可能性の高い少年は、そう言って、ふっと笑った。

□

話は一日前に遡る。

場所は変わらない。

月深学園中等部の旧校舎。ここはまさにその旧校舎の屋上で、中等部のころから高等部に進んだいまに至るまで、わたしの気に入り、心を静められる場所であり続けている。

「今日は風架がどうしてもって言うから、面子を立てて連れてきただけなのに、その態度はどういうつもり」

そして中等部に入ったとき、わたしはすでにひとりでいることにすっかり慣れていた。

「……帰宅部に部長はいるの? 部費は出せるの?」

いつのころからか、人と人の影を無意識に確かめて、それで安心するようになっていた。……

## 神楽 断章

少年の意識が醒めたとき、まず眼前に入り込んできた光景は、どこまでも続く朱色の空だった。太陽も、雲も、風さえも同じ色に染まり、ひとつに統べられた世界が少年の視野を埋め尽くしていた。

少年は思い出した。これは焼ける雲、夕焼けと呼ばれる景色だと。

太陽がその役目を終え、舞台からゆっくりと落ちていく時間。

木々の影も建物の影も長く伸び、自分の前を行き交う人影が踊るように交錯していく——

やがて、少年は気づいた。

自分には、世界に置き去りにされたように影がない。この赤紅の世界へ落ち込むようにして、自分だけが一筋の孤影になっている。

少年は身体を動かし、両手を眼前にかざした。

たしかに自分の手だ。毎日見ているものだ。

小さな糸口を得ると、途切れ途切れの映像が次々と再生されていく。

少年はひとつひとつの記憶の有無を確かめていった。

自分の名前——覚えている。

できるだけ遠い記憶を掘り起こし、少年は自身の短い映像を確かめた。自分に関することなら、おおむね問題ない。たしかに存在したという証明が、心のなかに記録されている。

ここは月深学園の校内だ。少年が毎日通っている、自分がいるべき場所だ。

大丈夫、覚えている。これは夢でも幻覚でもなく、現実だと理解できる。

少年は確認を続けた。

映画を再生するように、遠い記憶から新しい記憶へと目を通していく。

やがて——

少年は記憶の欠損に気づいた。

再生される映像には砂嵐がかかり、少年の心から何かが欠け落ちていた。

少年はそれを補うために……

## 凛音神楽

あとから振り返って、ぼくは思う。玖珂凛音という名の少女のことが、絶対に好きだった。言い換えれば、彼女に対するぼくだけの特別な好意だ。だから、凛音との出会いが偶然だったとしても、それが前もって用意されていた可能性を、誰も否定できない。年齢相応で、恥ずかしい言い方を許してもらえるなら——これは、運命だ。

最初の一幕は、まだ冬に入る前の十月下旬に起きた。

□1

その日、ぼくは classmates ではなく——同級生の遠矢佑吾と二人、月深学園中学の新校舎の前に立っていた。これは、わざわざ人に話すほど特別なことではない。遠矢は、ぼくが気軽にからかい合える数少ない classmate ではなく、 classmate——気軽に冗談を言い合える数少ない同級生で、よく一緒にいた。そんな二人はいま、制服を着て、自分たちの校舎の階段の前に立っている。(訳注:この章の主人公の一人称は「僕」。男性語であり、訳文では区別しない旨を特記する)

「……本当に入るのか? 明日でもいいだろ」

いまさら遠矢が確認してくる。遠矢は中等部の誰もが認める運動神経と、天から恵まれた体格の持ち主だ。その彼が、不安げな顔をしている。

「怖いならひとりで帰れ。そもそも、ついてこいなんて言った覚えはない。忘れ物をしたのはぼくのほうだ」

この光景でただひとつ普通でないもの——それは時間だ。眼前にそびえる校舎は闇にすっかり包まれている。周囲に、ぼくたち二人以外の人影は見えない。すでに夜だから……

## 此花神楽 断章

また晴れ渡った朝だ。わたしたち三人は、学校へ続く道を歩いている。

「お姉ちゃん、この制服、もう少し貸してくれない?」

すぐ傍らについてくる妹が、制服のスカートを揺らす。

昨日の朝、わたしがまだ寝ているうちに、部屋へ入り込んで旧い制服を持っていった。高校に入ってからは、袖にさえ腕が通らなくなっている。

「わたしは着ないんだから、好きにしな」

「中学の制服を着た此花も、好きなんだけどな」

高校の制服を着た少年が、並んで歩くわたしと妹の後ろをついてくる。少年の、いかにも残念そうな台詞は、もちろんわたしに無視された。

わたしは意図して無視し、妹——真白のほうは必然だ。

少年が見え、少年の声が聞こえるのはわたしだけだ。この状況を、三人で道を歩いていると表してよいのか、自信はない。

——自分を殺したのは誰だと告げた少年。どこか見覚えのある少年。

記憶をいくら探しても、少年の存在は見つからない。少年が嘘をついていないなら、少年と過ごした時間は砂が滑り落ちるように、わたしの頭から消えてしまったことになる。

自分の記憶を疑うのは、そう簡単なことではない。

それでも——切られた風船であっても、そこに風船があった痕跡は残る。誰かに指摘されて初めて気づくような、ごく小さな断片であったとしても——

少年がわたしの前に現れ、異変の欠片を無理やり眼前に突きつけてから、一か月が過ぎた。少年の名は、いまだに教えてもらっていない。

「教えてあげてもいいんだけど、やっぱり此花に……

## あとがき

あとがきを書くのは、昔から苦手だ。

上に書いたとおりである。

面白い話が、まったく思い浮かばない。

二ページ分のあとがきを埋めるために、もう何度書き直したかわからない。それならあとがきなどないほうがいい気もするが、やはり最初に挨拶だけはしておかなくてはならない。

はじめまして。あるいは、長いあいだお待たせしたのかもしれない。久弥直樹です。

これまで雑誌に短編を発表してはきたものの、書店に並ぶ本という形で小説を書く機会は、これが初めてだ。あとがきを書いている時点はもちろん印刷の前で、この本はまだ存在しない。ぜひ読んでください、と想像しながら言うこともできるだろうが、やはり感慨深い。

『桜神楽』は、もともと星海社に依頼されて書いたものではない。

経緯は紆余曲折で、このまま『桜神楽』が出版の機会を失ってしまうのではないか、と思ったこともある。

そのとき、星海社の太田さんが「それならうちで出しましょう!」と言ってくれた。太田さんはすぐに原稿を読み終えて、貴重な意見をくださった。感謝してもしきれない。

担当編集の太田さんだけでなく、『桜神楽』がこうして存在できるのは、多くの方の助けがあってこそだ。

イラストを描いてくださった岸田メル先生。表紙の此花と真白が、本当にすばらしい。

ほかにも、星海社の林さん。お目にかかる機会はなかったものの、本書に携わってくださったスタッフの皆様。そして、いまこうして実際に『桜神楽』を手に取ってくださっている皆様に、心からの感謝を捧げたい。本当に、ありがとうございます……

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