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幻想症候群

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原題: 幻想症候群

幻想症候群 — 物語のイラスト
作品紹介のカバー画像 · AIで制作したイラストです。原作の公式表紙ではありません。

# 幻想症候群 ## 挿絵 > https://www.bilinovel.com/novel/1207/121280.html ![](https://img3.readpai.com/1/1207/121280/80907.jpg) ![](https://img3.readpai.com/1/1207/121280/80908.jpg) ![](https://img3.readpai.com/1/1207/121280/8090……

オリジナル小説です。登場人物と出来事は架空です。

紹介の編集: 黄果ショートドラマ · 更新日:

物語

## 挿絵

## 遥かなる夏

スキャン:illyfhy

錆びた鉄条網を越えると、目に飛び込んできたのは、海に沈んだ廃墟群だった。

林立する高層ビルが海面から突き出し、潮を押し分ける。まるで束になった銀の槍が、陽光を受けてきらめいているようだ。

二十二歳の夏。頭上には強烈な白光と、群青の空。今日も暑さは耐えがたい。太陽が火のように燃える、正真正銘の夏の日。

今週も、御中衛は鉄条網の切れ目をくぐり、立入禁止の区域へと向かった。

いつものように、東側から四棟目のビルの窓に渡した板を渡り、廃墟の内部へ入る。

錆びた鉄の扉。誰も使わない机と、ばねの切れた椅子。塗料が半分剥げ落ちたコンクリートの壁。見慣れた景色。

「ドンドンドン」と階段を下り、目的の階に着くと、非常口へ向かう。

非常口の外は、見渡す限りの青い海面だった。彼はロープで繋いだ小舟に飛び乗る。

両足に体重がかかり、小舟は一度かすかに傾いてから、元に戻る。ロープを解き、身をかがめて電源を入れ、出発する。

プップップッ——

軽やかなエンジン音が、波間に消えていく。電動の人工筋肉を使ったエンジンは、ガソリンのものより音が小さい。

ふと見つけたボロ船を、本を見ながら修理して、使えるようにした。この小舟は、これまでの人生で、人前に誇れると思えた唯一のものだった。

ビル群の強化ガラスが、碧い海と青空、そして陽光を受けて眩しく輝く。彼は思うがままに、コンクリートのジャングルを縫うように進む。船体が跳ね上げる小さな波しぶきが、彼の心を……

## 無限回帰のエンドロール

十二分後

そういえば——

ここはまだ、映画館の中なのか?

だが、どういうことだろう。まるでそう感じられない。本能的に、どこかおかしいと思う。

今のところ、結論は出ていない。

脳の半分はまだ眠ったままで、夢うつつに、ぼんやりと考えている。

あたりの異常な静寂は、映画館というより、誰もいない体育館にいるかのようだ。咳払い、ひそひそ話、体を動かす音。そうした類の音は、何一つ聞こえない。

すぐそばにいるはずの人の気配も、同じように感じ取れない。

前方の上部から、音程の狂ったピアノ曲が聞こえてくる。テンポの遅い旋律が、はっきりと耳に届く。この旋律を言葉にするなら、監視者の含み笑いだ。

映画の中身は、話題性ばかりで緊張感のないスリラーだった。

二〇三〇年、八月三十日。

高校の推理研究会で、僕より一学年上の先輩——穂波貴理の誕生日だった。勇気を出して、「一緒に映画を観に行かないか」と誘った。

もちろん、最初からスリラーを観ようと思っていたわけではない。いくら神経が図太くても、好きな人の誕生日にホラーへ誘うつもりはなかった。

最初に観たかったのは、ジョルダーノ主演で、ファンタジー大作と評された映画だった。ところが運悪くチケットが完売していて、仕方なくこの一本に切り替えた。

宣伝では、リアリティが凄まじいあまり、実話を基にしているという噂まで流れていた。実際に観てみれば、少女が怪物に追われ続ける画面を延々と繋いだだけの「大作」にすぎなかった。

エンドロールが……

## 『夏休みの終わり』

現在 残り156時間43分

「もし————」

川辺を歩きながら、僕は彼女に訊いた。

「自分の命を犠牲にすれば世界を救えるとしたら、芳川、君ならどうする?」

眩しい陽光。眩しい陽光の下の、真っ黒な影。底知れない青空。連なりうねる山。耳障りな蝉時雨。せせらぎの川。ぬるい空気。ゆるゆると吹いてくる涼風。

塾からの帰り道。僕たちはいつものように、夏の風景の中を並んで歩いていた。

「またあの変な夢?」と芳川が訊く。

シャツが陽光の下で、眩しい白さを放つ。麦わら帽子が影を落とし、表情はよく見えない。だが声はすでに明白に示していた——機嫌が悪い、と。

「そんな荒唐無稽な話、よくも何度も言えるわね!」

雨のような蝉時雨の中で、彼女は文句を言った。まったくその通りで、必死に抑えようとしてはいるのに、芳川と一緒にいると、気が少し緩んだだけで口をついて出てしまう。

「意味のある話をしなさいよ。高校最後の夏なんだから。大学に入ったらバラバラになるのに、残りの時間をちゃんと使おうと思わないの?」

不満げに言い、それから微笑んだ。

「そう、たとえば、今日一緒に何か映画でも観に行かない? みたいな。」

「ジョルダーノの映画は、九月からだろ。」

「ジョルダーノが出てない映画なら、八月からあるわよ。」

「それでいいのか。受験生がそんなことをして。」

「受験生だからこそ、やらなきゃいけないの! わかってる? わかってないわね~」

そう言って、彼女は僕の腕に手を絡めた……

## 一千年年の森

東西に連なりうねる砂丘と、東から西へ赤から深い青へと移ろう空。それが、僕の視界のすべてだった。

ここは、人間が生きていける場所ではない。つまり、非居住区域だ。

黄昏。一日のうちで、いちばん好きな時間だ。

僕は鼻歌を口ずさみながら、果てしなく広がる砂の世界を歩き、腰に下げた革袋を開け、最後の一粒の種を取り出して、砂の中に埋めた。

小さく息をつき、種が早く芽吹くようにと祈る。

……これで、今日の仕事はすべて終わった。

出かけるときに種でいっぱいだった革袋は、もう空っぽだ。

砂丘の上に立ち、あたりを見渡す。いつか、このあたり一帯は、とてもとても大きな森になる。先生との約束を、一日たりとも忘れたことはない。

振り返ると、砂地に足跡が残っている。すぐに消えてしまうこの足跡が、自分がここで生きている証のように思えて、つい願ってしまう。この足跡が、ずっと残っていればいいのに、と。

砂丘を登ると、遠くに白いドーム状の建物が見える。僕の家は、歩いて一時間で着く、あの白い半円形の屋根の下にある。

さらに先には、とてもとても大きな高層ビル群があり、天へ攀じ登ろうとするように、揃って空へ伸びている。

遠い過去、このあたりは海面の上昇によって水没し、その後は放置されて、人類の文化の足跡となった。

最後の「人間」——先生が亡くなってから、二百四年と三か月十四日三時間五十七分十八秒が過ぎている。

黄昏の景色は、二百四年のあいだ変わらなかった。きっとこれからも……

## あとがき

西村? 誰それ? そんな思いでこの本を買ってくれた大多数の読者の皆さん、こんにちは。

ああ~あいつ? まだ本を出してるの? そう思った少数の読者の皆さん、お久しぶりです。

西村悠です。

さまざまな工程を終えて、ようやくあとがきまで来ました。多くの方の助けを借りて、なんとかこの本を仕上げることができました。

ええ……なんだか照れくさいのですが、キーボードを叩くこの指は、いまも上梓の喜びに震えています。

この状態ではまともな文章も書けそうにないので、先に一杯いただくことにしました。

乾杯。

……酒は喉を通りました。ここから先は、酒の勢いを借りなければ口に出しにくい持論です。

僕だけがそう感じているのかもしれませんが、何かを欲しいと思い、雑念なく必死に追い求めても、それを手に入れられる確率は一割にも満たない。

いわゆる、人生、意のままにならぬこと十に八九。

泥に足を取られ、転んでは転がり、傷だらけになって、ようやく一歩前へ進める。

それが、世の中の理なのだろう。

しかしよく考えれば、それも無理からぬことだ。

なにしろ地球は、僕たちを中心に回っているわけではない。

だから面倒ごとは、やって来たいときにやって来て、僕たちの意向など訊いてはくれない。

僕たちはいつも、「どうしてこんなことに……」とか「なんでいつもうまくいかないんだ!」と文句を言いながら、それでも生活を続けている。

まったく、思いどおりにはならない。だが、それによって均衡が保たれている……

運命の神は、そう簡単には人を幸福にはしない。

だから、いまこれを読んでいる君! たとえ今、幸せに暮らしていなくても、気にすることはない。この世界には、そもそもそんな……

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