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ゆえに少女は思い出を糧とする

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原題: 因此少女以回忆为食

ゆえに少女は思い出を糧とする — 物語のイラスト
作品紹介のカバー画像 · AIで制作したイラストです。原作の公式表紙ではありません。

ゆえに少女は思い出を糧とする。挿絵。

オリジナル小説です。登場人物と出来事は架空です。

紹介の編集: 黄果ショートドラマ · 更新日:

物語

## 挿絵

## 序章

「ねえ、華。」

俺は、もがくのをやめた。

尻餅をついて倒れ、無様にへたり込んでいる俺に向かって、少女は小さな掌を差し出した。抵抗すれば呪われる。そういうことなのだろう。

彼女の掌の下から逃れる術は、ない。

「ここにて、汝の思い出を食い尽くそう。汝が守りし大切なる記憶を、老身が存分にいただこうぞ。」

少女は、無慈悲にそう断言した。

……ああ、そうか。

洋菓子のように甘すぎる衣装と、幼い容貌。あれはきっと、相手の油断を誘うために仕掛けられた罠なのだ。

どう見ても、可愛い少女にすぎない。だが、彼女が魔物であることは、疑いようのない事実だ。

俺を獲物と見なす魔物。人の大切なものごとを奪い去る魔物。

深夜、人気のない公園で俺を襲った魔物。

彼女はそのまま、俺の頭に手を置いた。

もう、身動きが取れない。いつの間にか、俺は彼女にそんな呪いをかけられていた。

「思い出とは、大切というより、美味なるものであろう。こってりと、ねっとりと。そして奥に隠された、練り上げられた濃厚な味わい。」

どん、と何かが、俺の頭の内側で光を放った。

「そう。これこそが、汝の思い出。」

よく見れば、光の中心に、楕円形の、宝石のようなものがある。

まさか、それが思い出だというのか。どこかで見たことがあるような気がする。うーん………

## 第一章 いつか、どこかで

都会と呼べる街から、かなり離れた盆地に、この町はあった。

霊戸路町という、かつての炭鉱の町だ。戦時中、ここで石炭が掘れるとわかり、土地の人口は急増した。戦後は、残った鉱夫とその家族の働きによって繁華街へと発展し、栄えた町だった。

だが、それも過去の栄華にすぎない。

昭和の遺物と嘲られるいまは、寂れた田舎町にすぎない。いまの霊戸路町に対する、町の内外を問わず大半の人の印象は、そういうものだろうと思う。

空を見上げれば、遠く、霊戸路タワーと呼ばれる巨大な煙突が、町の中心にそびえている。空へどこまでも伸びていくようなその塔は、町でいちばん大きなボタ山の頂上に建っている。ボタとは、炭鉱を掘るときに出る残渣のことだ。ボタが積み重なり、ついには山となったものが、ボタ山である。

これらのボタ山は、ここが炭鉱の町だったことを示す遺跡だ。もちろん、あの煙突は、もう動いてはいない。この町の通りを眺めながら、頭の中で日記の内容をまとめている。それと同時に、店先に置かれた古い糖球機(硬貨を入れて回すと、糖球ががらがらと転がり出てくる)を拭いている。

店先とはいえ、実際は俺が働き、住んでいる駄菓子屋にすぎない。日記をつけるのも、ただの習慣だ。何年続いているかも、もうわからない。生涯の仕事と言っても過言ではない、毎日の務めである。

日記を書き続ける理由は……

## 第二章 魔法の輝き

「これはね、人に苦しみを忘れさせるために生み出された、魔法。」

それはまだ、俺と夢の仲が良かった頃のことだ。

苦しみを負いすぎた俺たちは、そのとき、祖父の家を訪れていた。

「夢は、そう思ってるの。」

あの日、夢は、光るその破片を、魔法にたとえた。

それは確かに、まだ子供だった俺たちに苦しみを忘れさせる、魔法のようなものだった。

「ねえ、お兄ちゃん。お母さんは、もう帰ってこないの?」

もう、帰ってはこない。

夢はわかっていながら、それでもそう訊いたのだろうか。それとも幼すぎて、その現実を理解できなかったのだろうか。

「帰ってこれたらいいね。」

俺は、そんな曖昧な返事で彼女に応えることしかできなかった。

いまはただ、この魔法に頼りたい。このまま頼りたい。このまま、忘れてしまいたい。

母の死と、父の異変を……

夏休み。必死に貯めたお小遣いで祖父の家へ向かった、夏の冒険。

俺たちはそこで、優しい味を知った。

枕元が涙で濡れているのに、気づく。

目を開けた瞬間、涙が目尻を伝って落ちた。

どうやら眠っているあいだに、泣いていたらしい。

——夢? 俺は、どんな夢を見ていたんだっけ。

目が覚めたとき、さっきまで見ていた夢の内容を思い出せないのは、よくあることだ。

「あれ?」

「む、華。もう起きたのか。本当に早いな。」

「ねえ、華。とにかく思い出というのは、記憶という深淵から膨大な世界を呼び覚ます鍵、そういうひと……

## 第三章 夢のしずく

2006年 5月14日(日曜日)

とうとう、お兄ちゃんも夢のことを忘れてしまった。

お父さんのあのときと同じで、最初からそんなものは存在しなかったみたいに、夢の存在に気づけなくなっている。

夢はお兄ちゃんが一番好きだから、ぜったいにぜったいに忘れたりしないのに、お兄ちゃんはもう、夢のことを忘れてしまったみたい。

どうしてか訊いても、お兄ちゃんは夢に答えてくれない。

だって、お兄ちゃんはもう、夢のことを全部忘れているから。

夢はこんな状況が、とても悲しくて、だからとても不安になる。

とても、怖くなる。

どうして忘れられるのか、わからないから?

いいえ、そうじゃない。

夢は、知っているから。

お兄ちゃんと、お父さんが、夢を忘れた理由を。

きっと全部、夢のせいなんだ。

夢はあの人たちにとって、不幸を運ぶ魔物みたいな存在なんだ。

だから、悲しい。だから、寂しい。忘れられるって、そういうことなんだろう。

そして今の夢には、わかる。お母さんが、どうしてあんなに忘れられることを恐れていたのか。

お兄ちゃん、夢はね——いま、ここにいるよ?

でも夢は、お兄ちゃんが悲しんでいるところを、見たくない。

夢を見た。

また、変な夢だ。見たことがある気がするのに、記憶のどこを探しても見つからない、そんな夢。

「汝、勘違いしておるぞ。数ある長所のうちのひとつにすぎぬものを。老身は、街の発展と人の幸福が比例するとは思っておらぬ。もちろん、そうは思って……

## 第四章 別れの向こう

俺が夢を殺したとき、まだ十歳だった。

——さっきまで生きていた夢の体は、すっかり冷たくなっていた。

ドアノブに結びつけたタオルで、首を吊って死んでいた。

最初は、何かの悪戯だと思った。

家に帰ったら妹が死んでいるなんて、どうしても想像できなかったからだ。

いや、違う。当時の俺には、その光景を想像できていた。自殺くらいのことは、俺にとって非現実ではなかった。母も、そうして死んだからだ。

だから俺は、目を逸らした。夢のことからも、母が死んだことからも。自分が傷つかないことだけを考えて、死にかけの夢を見殺しにした。

だから、夢は俺に殺されたも同然だった。

もう、思い出した。

一度は忘れた思い出を。

かつて飴に喰われた、俺の過去を。

俺と夢は、霊戸路町のような田舎ではなく、都会で生まれた。父はごく普通のサラリーマンだったが、母は歌手という、世間一般からすればかなり変わった仕事をしていた。

母が歌っていたポップスは、売れているとも、売れていないとも言えなかった。

知る人は知っている。だが当時、彼女を覚えていない人のほうが多かった。そんなところだろう。

父と母は、昔は優しかった。少なくとも物心がついたばかりの頃には、甘い思い出がある。

だが長くは続かず、その後ふたりは変わった。母が心を病み、そのあと父も移ったように病んで、ふたりともおかしくなった。

母の被……

## エピローグ

教室に、チョークが黒板を叩く音が響いている。

眠気をこらえて、板書を写している。だが正直、眠くてまったく頭に入らない。

退屈なので、あたりを見回す。

人の振る舞いを観察して、誰が何をしていて、なぜそうするのかを覚えておく。俺にはそんな癖がある。昔、これをしているときには、義務感や使命感のようなものを感じていた。

だが、今は違う。ただの習慣にすぎない。だからこそ、完全に癖だと言うのだ。

「あー、じゃあー、誰を当てるのも面倒だし、出席番号が今日の日付の……紫田、答えて。」

「はい!」

紫田さんは先生に指名されて立ち上がり、解答した。

答えは完璧で、先生は満足げに笑って頷いた。

紫田さんは、最近よく笑っている。

最近親しくしている楜原さんの影響かもしれない。あるいは、もともとこうであるべきだったのかもしれない。もともとよく笑う性格なのに、何かの事情でそうでなくなっていただけ。それも、十分あり得ることだ。

そして紫田さんの消しゴムは、もう見当たらない。

「よっ、華っち! 今日も店の用事で忙しいのか?」

放課後、ホームルームを終えて店に帰ろうとしていた俺に、楜原さんが話しかけてきた。

「うん、店長だからな。ちゃんとやらないと……」

「ふーん。華っちってやっぱりすごいよね。爪の垢まで……

## あとがき

さて、まずは自己紹介から。

七烏未奏です。「七烏未(ななうみ)・奏(そう)」、姓と名はこう分かれます。大半の読者にとっては初対面でしょう。普段やっているのはゲームです。基本的には脚本や企画からはじめることが多く、進行管理や対外的な折衝にも、かなり関わります。いくつかの組織を経て、いまは無所属です。どうぞよろしくお願いします。

今回『ゆえに少女は思い出を食う』をお買い上げいただいた読者の皆さま、本当にありがとうございます。この本が好きな読者も、好きではない読者も、あとがきから先に読みはじめた読者も、あとがきだけ読んでまだ買っていない読者も、みなさんに感謝します。

どんな形であれ、僕が生きていられるのは、『何かを読む』ということに、何らかの価値を見いだしてくださる皆さんのおかげです。そして数ある選択肢のひとつとして拙著を手に取っていただけたなら、本を書いて食っているだけの僕にとって、これほど幸せなことはありません。改めて、心から感謝します。

……さて、少々堅苦しい前置きは、ここまでです。

あとがきは6ページ書く予定で、こういう話がひどく苦手な僕にとっては、まさに地獄に落ちたような状況です。この6ページのあとがきを埋めるために、何を書けばいいのでしょう。

まずは、本編で言えなかった重要事項を補足します。

・飴の大事なところには、毛が生えていません。

・夢も同じく、生えては……

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